SVD

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SVD(特異値分解)とは、任意の行列を直交行列と対角行列の積に分解する手法です。 行列の「特徴を抽出」し、次元削減や圧縮に応用できます。ここでは画像を例に、低次元での近似を体験します。


1. 直感:行列を「基本パターン」に分解する #

  • データ行列 $A$ を「基底ベクトル」と「重み」に分解して表す方法。
  • 画像なら「ぼやけた基本的なパターン」を重ね合わせて元画像を作るイメージ。
  • 特異値が大きい要素から順に「情報量の多いパターン」を表す。

2. 数式でみる SVD #

任意の行列 $A \in \mathbb{R}^{m \times n}$ は次のように分解できる:

$$ A = U \Sigma V^\top $$

  • $U \in \mathbb{R}^{m \times m}$:左特異ベクトル(直交行列)
  • $\Sigma \in \mathbb{R}^{m \times n}$:特異値を対角成分にもつ対角行列
  • $V \in \mathbb{R}^{n \times n}$:右特異ベクトル(直交行列)

特異値 $\sigma_1 \ge \sigma_2 \ge \dots$ は「データの強いパターン」順に並ぶ。
上位の特異値だけ残すことで「低ランク近似」ができる。


3. 実験用のデータ(画像) #

「実験」という文字画像をグレースケール化し、行列として扱う。

import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
import japanize_matplotlib
from scipy import linalg
from PIL import Image

img = Image.open("./sample.png").convert("L").resize((163, 372)).rotate(90, expand=True)
img

png


4. 特異値分解を実行 #

X = np.asarray(img)
U, Sigma, VT = linalg.svd(X, full_matrices=True)

print(f"A: {X.shape}, U: {U.shape}, Σ:{Sigma.shape}, V^T:{VT.shape}")
A: (163, 372), U: (163, 163), Σ:(163,), V^T:(372, 372)

5. 低ランク近似で画像を復元 #

特異値の上位だけを残すと、元の画像を少ない情報で表現できる。

for rank in [1, 2, 3, 4, 5, 10, 20, 50]:
    U_i = U[:, :rank]
    Sigma_i = np.matrix(linalg.diagsvd(Sigma[:rank], rank, rank))
    VT_i = VT[:rank, :]
    temp_image = np.asarray(U_i * Sigma_i * VT_i)

    plt.title(f"rank={rank}")
    plt.imshow(temp_image, cmap="gray")
    plt.show()

ランクが大きいほど細部が復元され、ランクが小さいほどぼやける。


6. 特異ベクトルの解釈 #

各特異値に対応する $U, V$ の列は「画像のパターン」を表している。
例えば $u_1$ は「最も大きな構造」、$u_2$ は「補助的な構造」を表す。

total = np.zeros((163, 372))
for rank in [1, 2, 3, 4, 5]:
    U_i = U[:, :rank]
    Sigma_i = np.matrix(linalg.diagsvd(Sigma[:rank], rank, rank))
    VT_i = VT[:rank, :]

    if rank > 1:
        for ri in range(rank - 1):
            Sigma_i[ri, ri] = 0

    temp_image = np.asarray(U_i * Sigma_i * VT_i)
    total += temp_image

    plt.figure(figsize=(5, 5))
    plt.suptitle(f"$u_{rank}$ の寄与")
    plt.subplot(211)
    plt.imshow(temp_image, cmap="gray")
    plt.subplot(212)
    plt.plot(VT[0])
    plt.show()

plt.imshow(total)

7. 実務での応用 #

  • 画像圧縮:少数の特異値だけで近似し、容量削減。
  • ノイズ除去:小さい特異値を削除するとノイズが減る。
  • 推薦システム:ユーザー×アイテム行列を分解し、潜在的な好みを抽出。
  • 自然言語処理:LSA(潜在意味解析)で単語文書行列を分解。

発展:SVDと他手法との関係 #

  • 低ランク近似の最適性:ランク$k$の近似 $A_k$ は $$ A_k = \sum_{i=1}^k \sigma_i u_i v_i^\top $$ と表せ、これが Frobenius ノルムで最良の近似になることが知られている。

  • PCAとの関係:データ行列を標準化して SVD を行えば、PCA の主成分と一致する。

  • 計算の工夫:大規模データではランダム化 SVD などを使って効率化。


まとめ #

  • SVDは「行列を直交基底とスケールに分解する」手法。
  • 特異値が大きい順に情報量が多く、上位だけ残すことで次元削減・圧縮が可能。
  • PCAや推薦システムなど、幅広い分野で応用される基礎的アルゴリズム。